長靴を履いた猫

 

 粉引き小屋に僕は住んでいる。そこで鼠を捕るのが僕の仕事。今日も獲物が捕れたのでご主人様の所に持っていこう。

……あれ?何か三人が集まって話し込んでるや。最近お父さんが死じゃったからな〜。なんだか揉めてるみたい。まっ、僕には関係ないけどね。

獲物を口に咥えて僕が主人だと認めている人の服の裾を引っ張る。みてみて、コレ捕まえたんだ。褒めて!尻尾をピンっと伸ばし目を爛々と輝かせてご主人様の瞳を見上げる。ねぇ、いつもみたいに頭を撫でてよくやったって褒めてよ。僕はそれが好きなんだ。

でも今日は違った。ご主人様は悲しい瞳で僕を見つめ抱き上げる。どうしたんだろ。咥えていた獲物を捨てて鳴き声をあげる。どうしたの、何かあったの?

すると、ふっと瞳が優しくなりいつもどおり僕の頭を撫でてくれた。僕はゴロゴロと喉を鳴らす。

「……わかりました。俺はコイツを連れてこの家を出ていきます。財産はお二人でお好きにどうぞ」

 何かに決別するようにきっぱりと告げ僕を連れて家を出ていった。

 

 後から聞いた話だと、お父さんが残した財産の分配で兄弟三人おお揉めをしたらしい。少ない財産でよくやるよね〜。まったくもってバカバカしい。それに嫌気がさしてさっさと戦線離脱したのが僕のご主人様である手塚国光。水車でも驢馬でもなく猫である僕しか欲しがらなかった。寝床と僕が居れば良いみたいなことを言うんだ。僕としては嬉しいことなんだけど、だって残りの二人に僕が世話されるなんて冗談じゃない。御免被るよ、僕は優秀だから一人でも生きていけるしね。ご主人様だし、優秀だから一人でも大丈夫だったのにまだチビの時に拾ってくれて首に首輪の代わりにハンカンチ巻いてくれたんだ……。だからこの家に住むことにしたんだから。彼以外なんてホント冗談じゃないよ。

でも、でもね、なんだかご主人様だけが損してる気がしてすっごくムカつく!だって無欲すぎない?晩年のお父さんの世話をしたのだってご主人様だもん。もっと貰ったって罰は当たらないのに。……欲が無いって言うか鈍くさいのかな。はぁ……。僕がしっかりしないと。

 

遅いな・・・。今日もご主人様の帰りが遅い。窓辺に寝そべり玄関をじっと見つめる。貧乏暇なしとはよく言ったものだ。おかげで僕の相手は全然してくれない。鼠をとっても褒めてもらえないし。やる気なくなっちゃう。あっ、帰ってきた。ご主人様の姿を見つけるとすぐに玄関に移動する。お出迎えしなきゃ。耳をピンっとたててタイミングを計る。3、2、1……。

「なぁ〜〜」

 玄関のドアを開けて入ると同時にお帰りなさいの挨拶をする。

「ただいま、不二」

 へへ、頭撫でてもらっちゃった。ご主人様の足に顔を擦り付け喉を鳴らす。 

「……すまないが疲れていてあまりお前の相手をしたくないんだ。すぐにご飯の用意はするから」

 それだけ言うと足早に台所の方に行ってしまう。僕も急いで後について行く。そしてご主人様の邪魔をしないようにじっと後ろで僕のご飯を作ってくれている後姿を見つめる。

「できたぞ、残さず食べろよ」

「みゃあ」

 僕のお皿に乗せられたご飯を美味しそうに食べる。その様子をしばらく見た後ご主人様はすぐにベッドに行っちゃった。最近ご飯あんまり食べてない。大丈夫かな?

 ご飯を全部食べた後、僕もベッドへ向かう。ご主人様はもう寝ちゃってる。少しやつれたかも……。ふっと目をそらすと月明かりに照らされたナイトテーブルが目にはいる。その上にはお財布が置いてある。近寄りお財布を踏むと中の硬貨がチャリっと音をたてる。コレがもっとたくさんあればご主人様は楽ができるのかな。僕の相手をしてくれるようになるんだよね。コレがもっとあれば……。

 

 次の日僕はいいことを思いついた。僕もお金を稼げばいいだ。

 朝食の時間ご主人様にお願いすることにしました。

「ご主人様、僕に長靴を一足ちょうだい。僕が外に出て人前で姿を見せれるようにしてくれない?」

 小細工するのもめんどくさいので真正面からお願いするとご主人様は目を丸くして驚きました。

「……なにをするつもりだ。見世物でもするつもりか?」

 手塚の眉間に皺が寄る。

「やだな〜、そんなことするつもりないよ」

「そうか……」

 じっと、ご主人様は僕を見つめていたけど諦めたようにため息をついた。

「……わかった。買ってきてやる。断ったらお前は何をするかわからないからな」

再びご主人様は深いため息をつきました。

……反応それだけ?僕がいきなりしゃべっても大して驚かないなんてやっぱり大物なのかな?

 

「なぁ〜」

いつもどおりお出迎え。でもいつもより入念に歓待する。

「ちゃんと買ってきたぞ。そんなに足にまとわりつくな。危ないだろ」

そう言いながらぶっきらぼうに僕に靴を差してくる。

「ありがとう」

 うれしそうに靴を受け取り、さっそく履いてみる。

「うん、サイズぴったり」

二足歩行をしてみせる。今度はどうだろう。手塚の様子を伺う。

「……お前は立って歩く事ができたのか」

 手塚が目を見張る。

うんうん、少しは驚いてくれたかな。

「じゃあ前足のための手袋は入らなかったか?」

 手袋を取り出してどうしようかと僕を見る。

「……ありがたく頂いておくよ」

 ……苦笑するしかないよね。手袋を受け取り嵌めてみせると手塚は喜び可愛いといって僕の頭を撫でてくれた。いいんだけどね……別に。でも少しは別のリアクションも欲しかったな……。

 

次の日、長靴と手袋を着ました。それから袋を一つ持ち出して、底のほうへ穀粒をいっぱい入れ、上のほうへは紐をつけて袋の口がぎゅっと締めれるようにしました。それをポンッと背中に背負い二本足で立ちました。

「それじゃ、行ってきます」

「ああ、遅くならないようにな」

「わかってるよ。ご主人様よりは早く帰ってくるから」

にっこり笑ってトコトコ歩き家を出て行く。手塚は不安そうに不二を手見送りため息をついた。

 

そのころある王様がこの国を治めていました。その王様は鷓鴣が大好物でしたが、まことに残念な事に一羽も手にはいりませんでした。しかし鷓鴣がたくさんいました。そのことを不二は知っているのです。つまり、この鳥をとって王様に売りつければ高く買ってもらえるってことなんだよね。でも狩人も馬鹿だよね。真正面からいけば逃げるに決まってるじゃん。少しは頭使わなくちゃ・・・。

森に入ると不二は袋の口を開けて穀粒を撒き散らしました。紐は草の間に入れて、それを灌木の茂みの後ろに吊るしました。そうそう、僕も隠れなきゃ。

待ち伏せすをしていると鷓鴣が駆け出してきました。穀粒を見るけると一羽ずつ後から後からぴょんぴょんと袋の中に入り込みました。袋の中にたくさん入ると袋の紐を締めました。そして走りよって鷓鴣の首を絞めました。それから不二はその袋をぽんっとしょって好い機嫌で、まっすぐ王様のお城へ行きました。普通の人だったらお城に行っても王様に謁見なんてできません。すぐに門番が追い返してしまいます。しかし不二は普通ではありませんでした。だって猫ですから。

お城に行くと門番が不二に大声で怒鳴りました。

「止まれ!お前はどこへ行く?」

「王様のところだよ」

 不二は手短に答えました。

「貴様、気違いか?猫が王様のところへ?」

 門番は失笑しました。すると笑いながら別の門番が言いました。

「かまわず通してやれ。王様は退屈なことがよくおありになる」

 と、いうわけで通してもらい不二は王様に謁見することができました。

 

 不二は王様の御前に出ると丁寧にお辞儀をして言いました。

「私の主人、伯爵(不二はでっちあげの貴族の名前を呼びました)が、王様によろしく申し上げるようにとのことでございまして、今しがた罠で捕らえましたこの鷓鴣を献上いたしまする」

 王様は不二をみて驚きましたが見事な鷓鴣をみて嬉しくって嬉しくってたまらず、金貨をだして持てるだけ不二の袋へ入れてやれと命じました。

「これをそちの主人に持ってまいれ、進呈物のお礼を幾重にも頼むぞ」

 不二は頷きにっこりと微笑みました。

 

 家では手塚が不二の帰りを待っていました。仕事が早く終っていつもより早く帰ってきたのです。不二がまだ帰ってきていなかったのでひどく心配しながら夕飯の支度をしいまかいまかと帰りをまっていました。まさか危ない事をしてはいないよな……。

「ただいま!」

 いきおいよく扉を開けて重そうな袋を背負った不二が帰ってきました。

「おかえり不二」

 袋をポイッと投げて手塚に飛びつく。

「なぁ〜・・・」

 手塚が頭を撫でてくれて嬉しそうに鳴き声をあげる。今でも手塚は不二のことを子猫のように扱ってくれるのだ。おかげでめいいっぱい甘えられるのです。

 甘えるだけ甘えた後、手塚に袋に詰めて貰った金貨を見せました。でも、手塚は喜んでくれません。それどころか眉間に皴を寄せてしまっています。不二は吃驚してしまいました。

「不二……このお金はどうしたんだ。まさか悪いことでもしたんじゃ……」

「もう!そんなことしていないよ!!」

 不二はこのお金を貰った経緯を手塚に話しました。

「そうだったのか。疑ってすまない。でも、それにしては貰いすぎなんじゃないか……?」

「そんなことないよ!それにこの金貨には王様のお礼の意味もあるんだからね。返したら失礼だよ!ありがたく貰っとかなきゃ!!」

「……そうなのか」

 不二のいきおいに押される手塚。あともう一息。

「そうだよ!」

 力強く頷き手塚を無理やり納得させます。

「そうなのか……、わかった」

 でもこれで簡単に納得されるからご主人様は心配なんだよね……。ま、僕が居るから変な輩には手出しさせないけどね。ちょっとため息をついてしまう。

「不二、何をため息ついてるんだ?お腹すいたのか?今日はもうご飯できてるぞ」

「うん、お腹はすいた。ご飯にしよ、ご主人様」

 ちょうどよく手塚が勘違いをしてくれたのでそれに便乗して笑顔を作って誤魔化します。こうして問題点は手塚の頭から消えていきました。

 

 次の日も不二は靴を履いて狩にでかけ、王様にたくさんの獲物をたくさんもって行きました。そして金貨をたくさん持って家に帰ります。毎日こんなことをしていくうちに不二はまんまと王様のお気に入りになりました。お城に自由に出入りしてお城の中は何度でも勝手に歩き回ってよろしいというお許しまでもらいました。

 あるとき不二は王様のお庭で日向ぼっこをしていました。すると御者がやってきてきました。

「ええい!王様も王女様もまた退屈になりやがって!人の休みを簡単に潰しやがる!!有山のお供で湖まで連れて行ってられっか!クソ楽しくない!」

 と、わめき散しながら庭を横切っていきました。

「ふ〜ん……いいこと聞いちゃった」

不二はニヤリと微笑みました。

 

 不二は家帰ってきたご主人様に向かってお願いしました。

「ご主人様、明日湖に行こうよ!」

「……どうしたんだ。いきなり?」

にっこりと不二はまるで天使のような笑みを浮かべます。

「息抜きだよ。明日はお仕事休みでしょ。湖に釣りをしに行こうよ」

釣りと聞いて手塚の表情が変わります。ちょっと考えてから嬉しそうに頷きました。

「そうだな。たまにはそれもいいかもしれないな」

「じゃあ決まりだね。明日が楽しみ」

「そうだな」

本当に楽しみだね。ね、ご主人様……。

小さく不二が細く笑んだのをご主人様は幸運にも気付きませんでした。

 

 次の日、不二と手塚は仲良く湖まで釣りにでかけました。目的地につくと手塚は早速釣竿をとりだし釣りを始めます。しばらくは不二も大人しくそれを見ていました。

 太陽がお空の真上にさしかかろうとしたころ不二は立ち上がりました。そろそろかな?

「ご主人様、ごめん!」

そう掛け声をかけて手塚を湖に突き落としました。

「な!何をするんだ!」

当然、手塚は怒ります。そこまでボケてはいませんからね。

「……なんか蜂がいてね。ほら虫って水の中までは追ってこないじゃない?」

「……」

手塚は不信そうな目で不二を見つめます。でも不二はそんなことで胸が痛むような繊細な心は持ち合わせていませんでした。いけしゃあしゃあと話を続けます。

「信じる信じないはご主人様の勝手だけど。……服濡れちゃったね。一応僕の責任だから火を焚いて乾かしてあげるよ。乾くまでは……代えの服は今ないし湖の中にいた方がいいかな?」

 それもそうだと納得して手塚は湖の中で服を脱ぎ不二に手渡す。しかし服を受け取った不二は服を乾かすどころか森に入っていきどっかに行ってしまいました。手塚はあまりのことに声もでず真っ青になり途方にくれてしまいました。

 森に入った不二は急いで手塚の服を隠し、耳を澄ませます。そろそろだと思うんだよね……。すると遠くの方で馬車がやってくる音が聞こえました。思ったとおりに事が運びついつい笑みが漏れるのを不二は耐えました。そしてちょうど目の前に来たところで不二は馬車の前にいき鼻声をだしていかにも哀れっぽく言いました。

「たぐいまれなるお情けぶかい王様!わたくしの主人がこの湖で水浴びをいたしておりますと、賊がまいりまして、岸に置いてございました主人の服を盗んでしまったのです、それで伯爵様は水の中に入っておいでですが、水から出るわけにはまいりません。この上ながく水中におりますれば、風邪を引いて死ぬでございますぅぅ……」

 王様はこれを聞いて馬車を停めさせました。そして、家来が一人駆けつけ王様の服をもってくることになりました。恐ろしく立派な服でしたが変なトコで頓着しない手塚はあっさりその服を着ました。王様はこんなことがなくても鷓鴣はいつもこの伯爵からの贈り物だと思っていたので好意を持っていました。だから美しい伯爵を自分と一緒の馬車に乗せずにはいられませんでした。王女も嫌な顔をしませんでした。王様の服を着た手塚は伯爵と呼ぶのにふさわしく美しくて立派だったからです。むしろ不二のほうが大丈夫かと心配になったくらいです。案の定、伯爵は王女にすっかり気にいられました。しかし不二には手塚のことばかり心配してはいられませんでした。王様の手塚を助けてくれたことのお礼として先にお屋敷があるので招待したいと言いました。そしてさっそうと駆け出しいきました。手塚は首をひねりましたが。もともと無口な性分なこともあり黙りこくってしまいました。

 

 不二は先回りをして大きな草原に来ました。草原には百人以上の人がいて飼葉を作っていました。

「もしもし、お尋ねしますがこの草原は誰のですか?」

 と、不二が農民に尋ねました。

「……偉い魔法使いの領地だよ。それがどうした?」

「よく聞いてね。もうじきに王様がここをお通りになるんだ。王様がこの草原は誰のか?っと、お尋ねになったら伯爵の、と言ってほしいんだ。(notお願い)もしもあなた方がその通りにしないとあなた方ひとり残らずぶち殺すぞ……」

 悪魔のような恐ろしい笑みを浮かべてそれだけ言うと不二はすたすたと先へ行きました。

すると麦畑に出ました。その麦畑はとっても大きく誰も見渡すことができません。そこには二百人以上の人がいて麦を刈っていました。

「もしもし、お尋ねしますがこの麦畑は誰のですか?」

「……偉い魔法使いの領地だよ。それがどうした?」

「よく聞いてね。もうじきに王様がここをお通りになるんだ。王様がこの草原は誰のか?っと、お尋ねになったら伯爵の、と言ってほしいんだ。(notお願い)もしもあなた方がその通りにしないとあなた方ひとり残らずぶち殺すぞ……」

 悪魔のような恐ろしい笑みを浮かべてそれだけ言うと不二はすたすたと先へ行きました。そしておしまいに不二はみごとな森へ出ました。その森には三百人以上の人がいて、大きな樫木を伐採して薪にしていました。

「もしもし、お尋ねしますがこの森は誰のですか?」

「……偉い魔法使いの領地だよ。それがどうした?」

「よく聞いてね。もうじきに王様がここをお通りになるんだ。王様がこの草原は誰のか?っと、お尋ねになったら伯爵の、と言ってほしいんだ。(notお願い)もしもあなた方がその通りにしないとあなた方ひとり残らず命を獲るぞ……」

 悪魔のような恐ろしい笑みを浮かべてそれだけ言うと不二はすたすたと先へ行きました。働いている人たちは不二の後姿を黙って見送りました。不二は猫です。猫である不二がへんてこな格好をして人間のように靴を履いて歩いているのですから、みんなは不二をそれだけでも十分に恐がっていたのです。彼らは不二に言った言葉を忘れることはありませんでした。

 不二はまもなく魔法使いのお城につきました。そして平気な顔をしてお城の中に入っていき魔法使いの前へつかつかと出て行きました。魔法使いは不二をみて驚きましたがじろりと見て所詮は猫と馬鹿にしました。

「何かようか、子猫ちゃん?」

 不二は恭しくお辞儀をして言いました。

「あなたはどんな動物にも自由に変身することができるとかねがね承っております。私も、犬とか狐とか、または狼ぐらいであればそうだろうとは思いますけれど、象なんぞはとても無理だろうと存じます。それで今日はこの目で拝見させていただきたくてやってきたのであります」

「そんなの朝飯前じゃ!」

 と、声高々に言い放って見る間に象に化けました。

「おみごと!おみごと!だけどライオンにも?」

「無論!」

 と、魔法使いは言いました。そしてライオンになって不二の前に立ちました。不二は竦みあがったようなふりをして隅っこへ引っ込んで叫びました。

「これはすばらしい!!まったくもって前代未聞!このようなことができるなど夢にも思いませんでした。けれども……ハツカネズミのような小さな動物は無理でしょう?」

「しゃらくさい!」

 魔法使いは鼻を鳴らして変身し、不二に見せ付けました。

 不二は狩のとっても上手な猫です。にっこり笑って一足飛びにハツカネズミに飛び掛り有無を言わさずぺろりと頭から食べてしまいました。

「あ、けっこう美味しい」

 

 お城を不二が占拠していたそん時、手塚の方は王様の馬車に乗って散策をしておりました。散策を続けていくうちに例の大きな草原にたどり着きました。

「この飼葉は誰のじゃ?」

 王様が農民に尋ねました。

「伯爵様の!!!」

 農民一同声を揃えて大きな声で言いました。不二の言いつけどおりに。

「伯爵殿、あなたは良い草原をおもちですな」

 と、王様は言いました。手塚は困ってしまいとりあえず頷きました。もともと無口なうえ、あまり表情が顔にでるたちではないので内面の動揺はまったく王様や王女様にはわかりません。

 その次に例の大きな桑畑に出ました。

「これこれ、この畑はだれのじゃ?」

「伯爵様の!!!」

 農民一同声を揃えて大きな声で言いました。不二の言いつけどおりに。

「これはこれは伯爵殿、大きな見事な畑でござるの」

 手塚は眩暈がしてきました。

 その次は例の森へ。

「これこれ、この森はだれのじゃ?」

「伯爵様の!!!」

 農民一同声を揃えて大きな声で言いました。不二の言いつけどおりに。

「あなたは、さぞかしお金持ちでいらっしゃるでしょうな、伯爵殿。わしの国中探しても、こんな立派な森があろうとは思いませぬ」

 王様は驚いたように言いました。でも言われた手塚はもっと驚いていました。そんなことは……と言って本当のことをいっても冗談だと思われて信じても貰えません。手塚は途方にくれ泣きたくなりました。

 

 とうとう一同は例のお城に着きました。不二は階段の一番上に立っていました。そして、馬車が下に停まると、飛び降りてきて扉を開いて手塚を下ろさせます。手塚に思いっきりにらまれましたけど笑顔で知らん顔です。

「王様、王様は私の主人、伯爵の館へご到着でございます。まことに光栄至極。伯爵こと終生に喜びでございます」

 こいつはどこでこんな言葉を覚えたんだろうと手塚はあっけにとられました。そして初めて後ろを振り向いてお城を見ました。

 王様も馬車から降りました。そして煌びやかな建物をみて驚きました。でも手塚はもっと驚きました。ただ、表情には出ませんでしたが。

 建物は王様のお城よりも大きくて立派でした。王女が手塚に手を差し出したので仕方なく手塚は王女の手をとって大広間へと不二の後について案内しました。もちろん不二は面白くありません。大広間はどこからどこまでも黄金と宝石できらきら光り輝いていました。

手塚はあまりの趣味の悪さに内心では辟易しましたが王女達は楽しそうなので黙って彼らが帰るのを待ちました。

「不二、これは一体どういうことだ?」

 王様たちが帰ると手塚は不二を問い詰めました。

「新しいお家。どうせならうんっっと豪勢にしたくてさ。気にいってくれた?」

 ふんわりと笑顔で言いました。

「おまえというヤツは……少しは限度といううものを……」

 問題は限度ではないはずなのですが、手塚も今日一日いろいろあったので疲れてしまっています。

「ん〜……でも王様に紹介しちゃったからもうこれ全部嘘でしたなんて言えないよ」

 手塚は言葉に詰まります。

「それにあの二人結婚がどうとか言ってたし……。どうするのご主人様?」

 不二の目がキラリと光ります。でも手塚はそんなことには気がつきません。それよりも今、不二の言った言葉“結婚”という言葉で頭が一杯になってしまったからです。

「……どうしよう、不二」

 途方に暮れて涙目になりながら不二に助けを求めました。(不二視点)

「うん、僕に任せてご主人様!……でもね、お願いがあるんだ。僕と一緒にここでずっと暮らしてくれる?」

 手塚はあっさりと頷きました。

「いいぞ」

「ホント?ずっとだからね!!」

「わかってる」

 手塚は優しく不二の頭を撫でてやりました。これも一種のプロポーズなのですが手塚はそんなこと気付きません。でも不二は幸せでした。

 

 

 そして約束どおりきっちり王女との結婚話はぶっ潰して、魔法使いの領土を不二は掌握し平和に治め、手塚とずっと幸せに暮らしました。










あとがき
  童話パロ第一弾です。最後まで読んでいただけて恐悦至極!
  つかこの不二猫魔法使いを食べたんだからきっと不思議な魔法を使えるようになってますね!
  そこら辺も妄想ふくらましてくださると大変たのしいかと思います。でわw





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